MCBの私の講義を聞いてくださった皆さん。たくさんの質問をありがとうございました。
臨床と研究の関わりが良く分かったという感想を多く頂きました。伝えたいメッセージが届いていてうれしく思います。
以下に質問にお答えしますが、もっと詳しく知りたい方は宮本(miyamot/span>)までご連絡ください。また4年生になったら行う自主学習など、研究の希望もありましたらお知らせください。
破骨細胞と骨芽細胞のバランスはなぜ崩れてしまうのでしょう?
いろいろな要因が知られておりますが、最も代表的な要因の1つは女性のエストロゲン低下です。また、多量の飲酒や喫煙、ステロイドなどの一部の薬剤の服用も要因となります。多くの場合は破骨細胞の活性が上昇することによってバランスが崩れますが、骨芽細胞による骨形成低下によるバランスの崩壊もあります。
破骨細胞は古い骨と新しい骨を識別することは出来るのか?
骨芽細胞により新しく作られた骨は骨芽細胞により覆われているため、骨吸収の対象にはなりません。骨芽細胞は自ら大量の骨基質蛋白を分泌して、その中に埋もれ骨細胞になります。この時点で、表面は骨芽細胞に覆われておらず、このような骨を好んで吸収すると思われますが、基本的には活性化されれば無差別に吸収すると考えられます。
DC-STAMP、Blimp1、Bcl6の関係を調べるにはどのような実験を行うのが有効か?
Blimp1とBcl6は転写抑制因子で、核の中で特定の分子の転写調節領域に結合することで、その発現量を調整します。なので、これらの分子がどの遺伝子の発現調整に寄与するのか、実際にその遺伝子の転写調節領域に結合するのか、ということを調べる実験が有効です。実際、Bcl6はDC-STAMPの転写調節領域に結合することで、その発現を負に制御し、Blimp1はBcl6の転写調節領域に結合することでやはりその発現を負に制御することを我々は見つけました。つまり、Blimp1が発現するとBcl6の発現が抑えられ、Bcl6の発現が抑えられるとそれまでBcl6によって抑えられていたDC-STAMPの発現が上昇し、細胞融合がスタートすることになります。
RANKL-ligandを阻害すると破骨細胞だけではなく骨芽細胞もダメになるのか?
RANKL-ligandを阻害すると破骨細胞の形成は抑制され、その結果、破骨細胞の活性により活性化される骨芽細胞の活性も低下します。しかし、破骨細胞抑制による骨吸収阻害の方が勝り、結果としては骨量が増えます。現在、我々も参加して骨粗鬆症に対してRANKL-ligandを阻害する抗体療法の第3相試験を日本で実施中です。
骨の粗密を感知する仕組みは?
骨の粗密そのものを感知するというよりは、力学的な要因によって荷重がかかる部分に骨が形成され、荷重がかからない部分は骨が減ります。メカニカルセンサーが働いて調整していると言われています。宇宙に行くと重力がなくなるので、急激に骨量が減ります。
DC-STAMP欠損マウスにおける骨新生に対する影響は?
破骨細胞の機能が抑制されると骨芽細胞の機能も抑制される(カップリング)のですが、DC-STAMP欠損マウスでは破骨細胞の機能は抑制されているにも関わらず骨形性能は通常より上昇しています。このメカニズムは分かっていませんが、他の研究室からも細胞融合を抑制すると骨芽細胞の活性が上がるという報告があります。
破骨細胞の異常による疾患は?
人間や犬の唾液には多くの細菌がありますか?
破骨細胞活性が異常に亢進する疾患としては代表的なものに骨粗鬆症がありますが、骨パジェット病や一部の骨破壊性腫瘍(多発性骨髄腫や成人T細胞白血病、転移性腫瘍)などが知られています。逆に破骨細胞の分化や機能が喪失すると大理石骨病という病気になり、骨髄腔が形成されなかったり、歯が生えなかったり、非常に骨折しやすい骨になるなどの症状を示します。
スポーツをしていて骨が折れやすい人と折れにくい人は何が違う?
骨粗鬆症性骨折の大きな要因の1つは転倒です。骨量が減っても転ばなければ骨折はほとんど起こりません。スポーツ選手も骨量があっても強い力がかかるような転倒をするとやはり骨は折れます。転ばないか受け身を上手にできる人は折れにくいでしょう。またドーピングやステロイドなどの筋力増強剤を使っている人は筋力はあがっても骨が弱く折れやすくなっていることがあります。
閉経後に骨量が急激に減る理由は?
エストロゲンが破骨細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導している、という報告があります。つまりエストロゲンがなくなると破骨細胞の細胞死が起こりにくくなり結果として骨吸収の亢進から骨量減少になると説明されています。
破骨細胞を減らすことで骨粗鬆症を抑制できないか?
まさに破骨細胞を減らす製剤が臨床的に骨粗鬆症治療に使われています。
破骨細胞を抑制するより骨芽細胞を促進する方が効率が良くないか?
骨芽細胞を活性化することの方が破骨細胞を抑制するより難しく、ずっと薬がありませんでしたが昨年骨芽細胞を活性化する製剤が日本でも認可され臨床で使えるようになりました。効率的には破骨細胞を抑制するのと同程度と思われます。
臨床試験が日本では遅れているようだが?
臨床試験(治験)では非常に多くの症例への投与が必要になります。私見ですがこの症例を集めることが日本では非常に難しいのが現状です。日本のような皆保険制度ではないアメリカを含む海外の国々では、保険に入れず自分の治療費を払えない方々が積極的に治験に参加し治療してもらっています(治験の対象薬を使う限り治療費や病院への交通費が無料なので)。こういう方々は途中でのドロップアウトも少なく、治験が多くの人数に対しスムーズに進む要因にもなっています。日本では全ての方の治療費が保険でカバーされるため、まだ承認前の薬を使う同意を得るのが難しい上に途中でのドロップアウトも多いのです。結果、多くの製薬メーカーが日本での治験を行わなくなってきています。
なぜ整形外科を進もうと思ったのか?
学生時代に怪我などで整形外科にかかったり、身近な科だったからです。
臨床と研究を両立するうえで大変なことは?
どちらも中途半端にならないようにすることが大変です。一生懸命取り組むしかありません。
破骨細胞の働きを抑制すると古い骨が残ったままになり支障がでないか?
破骨細胞の活性を薬等で完全にブロックすると骨のリモデリングも完全に止まり、折れやすい脆い骨になってしまいます。
DC-STAMP発見までの経緯を知りたい
実験的には細胞融合する破骨細胞と細胞融合しないが発現遺伝子が良く似たマクロファージという細胞をほぼ純粋に培養する系をまず作りました。その後、それぞれの細胞に発現する遺伝子を集めてきて、発現分子の引き算(破骨細胞--マクロファージ)をすると、破骨細胞に特徴的な遺伝子だけが残ります。この時点で103個ありました。その後、さらに他の細胞融合しない細胞には発現していないことなどのスクリーニングをかけて、細胞融合遺伝子の候補として7つにまで絞り込みました。あとはその中から勘でDC-STAMPを1つ選びました。研究には運も必要です。
薬剤師何を意味している
骨粗鬆症で破壊される骨の箇所は決まっているか?
骨粗鬆症を基礎疾患とした骨折が起こりやすい箇所は今回紹介した椎骨(特に下位胸椎と上位腰椎)と大腿骨頸部の他に、手関節部(とう骨遠位端)と上腕骨近位があります。
NO発見のプロセスは?
発見のプロセスの内容は覚えてません。ジョークだけ覚えてました、、、。
成長は20歳で止まるのに骨量のピークが30歳なのはなぜ?
基本的には20歳代が骨量のピークで、身長の成長が止まっても体重が増えると骨量も増えます。体重が思い人は軽い人より骨量が多い傾向にあります。
ダイエットや栄養不足以外に若いうちから骨粗鬆症を誘発させてしまう要因はあるか?
ステロイド治療などの治療薬や甲状腺機能亢進症など一部の病気は骨量を落とします。また、喫煙や多量のアルコール/コーヒーなどの摂取も骨に良くないとされています。
研究での成果が臨床に活かされるのにどれくらいの時間が必要?
ものによってまちまちですが、すでに安全性の確立された(臨床試験が終わっている)ものを他の疾患に応用する場合はすぐですし、第1相試験(動物実験での安全性試験)から最後の臨床試験までを全部となると長いものでは20年くらいかかります。最後まで到達できないものも無限にありますし、最後の最後でアウトになるものもあります。
破骨細胞の融合障害による問題は?
今のところないと思います。
臨床と研究を両方やろうと決断した時や理由は?
特にはないのですが、いつのまにかそうなっていました。ただ、研究を始めた時から臨床へ応用する研究がしたいと思っていました。そのためには基礎研究で深く理解することが必要だと思ってはいました。
急激な体重増加で骨量増加が間に合わないことはある?
基本的にはありません。体重が増える時間よりももっと短期的に、例えばかなりの重量物を持ち上げても大丈夫な位の骨量はもともとあります。
骨粗鬆症の有病率は40代では男性の方が多い?
統計上ではそうなりますが、実際の診療上ではそれを感じたことはありません。
ボルトを入れると骨の強度のバランスが崩れて周りの骨が折れやすくなる?
あります。ほぼ必ず起こりますので注意が必要です。必要があれば、折れてなくてもまとめて手術することもあります。
DC-STAMPは骨に特有か?他の細胞融合とは関係ないか?
樹上細胞をのぞけばDC-STAMPは骨に特有です。他の細胞融合をおこすものとして、受精の精子と卵子、胎盤の一部、筋肉などが知られておりますが、DC-STAMP欠損マウスではいずれにも問題がありません。DC-STAMP欠損マウスの♂と♀を交配しても子供が生まれます。
骨粗鬆症患者の増加は高齢化以外にも生活環境などの要因はあるか?
運動による負荷は骨量を上げるので、運動不足は1つの要因かもしれません。また、喫煙や多量の飲酒、糖尿病など生活習慣病も骨へ悪影響があることが知られています。
こんなのできっこないと思うことは研究でありますか?
かなり飛躍したことを考えればありますが、ぎりぎり現実的なところを攻めるようにしています。
免疫系と骨の関係がどうしてあるのか気になった
ポリオの広がりはどのように速くない
これまで免疫でその機能が知られていた分子群が実は骨にも深い関わりを持つ、ということが次々と明らかになりosteoimmunology(骨免疫学)という概念まで登場しています。破骨細胞分化に関わるM-CSFやRANKLといったサイトカインも元々は免疫の分野で発見されたものでした。
臨床と研究のセットの仕組みがなぜ日本で進まないのか?
そのようなポジションがないことが大きな要因の1つと思います。ポジションは基本的に臨床や研究それぞれを専門的に行うためのもので、両方をするためのポジションは日本ではまだほとんどないと思います。
骨芽細胞を高齢者で活性化させても効率が悪い?
効率は高齢によって大きく悪くなるということはないと思います。ただ若い時のような骨形成は望むべくもありませんが。
骨芽細胞と破骨細胞による骨の代謝システムについて詳しく知りたい
是非整形外科教室の宮本をお訪ねください。時間をとってお話しします。
骨粗鬆症が様々な病気の上流であるというのは直接的ではなく間接的な要因では?
その通りです
骨粗鬆症の治療の成果はどのように判断する?
骨粗鬆症の医療的介入、つまり治療の基準は骨密度が若年成人平均(20〜44歳の成人の平均骨密度)の80%未満となったときや骨の脆弱性に基づく骨折が起こった時ですが、治療の判断は骨密度の上昇あるいは低下の抑止、また間接的には骨代謝関連マーカーの挙動で判断します。
DC-STAMPのこれからの臨床応用はどのように進めるのか?
まだ出来ていませんが、現在DC-STAMPの効果を阻害する中和抗体の作製や薬剤の同定を進めています。
臨床と研究を両立する場合どのような生活になる?どちらに重点を置く?
私の場合臨床と研究を厳密に区別しないようにしていますが、患者と直接接する時間のことを臨床とすると、現在は研究に重点を置いています。
研究者として論文作製や学会発表で必要な英語はどのように勉強したのか?
とにかく努力することだと思います。しかしながら、英語が出来るからといって良い論文が書けたり良い発表が出来るわけではありません。我々が専門的に行っている内容は日本語で書いてあっても一般の日本人は分かりません。まず、論文や学会で発表する内容を自分の手で持つこと、そしてそれを誰かに伝えたいという思いがあれば、多少英語が下手でも相手に伝わりますし、良い結果であれば相手も一生懸命聞くよう努力してくれます。そんなことを繰り返すことだと思います。
研究において分からないことへ挑む限界を感じたりあきらめたりしたくならないか?モチベーションはどのように保つのか?
答えがある学校の勉強よりは答えがない(現段階では分かっていない)研究の方が自分にはあっていたようです。学校の試験は先生が答えを知っていて終わると採点されますが、それはつまり自分でなくても誰かがあるいは誰でも答えにたどり着くことができることです。研究では自分が誰よりも早く真実にたどり着くことが出来ますし、幸いにも実際に世界で初めての発見にたどり着けたりもしたので、今のところ限界は感じていません。むしろ挑戦したいと思っています。挑戦したものにだけチャンスがある、という言葉がモットーです。
DC-STAMP欠損により骨芽細胞の働きが相対的に高まることで、骨の肥大化や別の疾患になるおそれは?
DC-STAMP欠損による骨芽細胞の相対的な活性化は劇的なものではないので、別の疾患になることはないと思われます。
骨芽細胞/破骨細胞の連携に着目した新たなアプローチは?
今、世界的にホットなところだと思います。興味があるようでしたら、うちの研究室にお越し下さい。
DC-STAMP遺伝子に変異のある人の表現型は?
DC-STAMP欠損マウスの表現型はそれほど大きくなく、外見上も正常なので、DC-STAMP遺伝子に変異のある人もDC-STAMP遺伝子に異常があることに気がつかないと思います。
骨折の痛みは若い人の密な骨の方がスカスカの骨より強い?
これは正直分かりません。若い時と骨粗鬆症になってから似たような部分を骨折した方に聞いてみるしかないかもしれません。ただ、高齢者や痴呆の方でも、骨折すると強い痛みを訴えられますので、骨粗鬆症の骨でも折れると相当痛いと思います。
食事療法で骨粗鬆症の予防をすることは可能か?
ある程度は可能です。ビタミンDやビタミンK、カルシウムなどの摂取に加え、適度な運動が推奨されます。
骨芽細胞のパワーを左右するものは骨吸収の刺激以外にもあるのでは?その因子を使えば骨芽細胞のパワーを上昇させて骨密度を上げるのでは?
その通りです。副甲状腺ホルモンが骨芽細胞を刺激して骨形成を上昇させることが明らかとなり、昨年から治療に用いられるようになりました。
DC-STAMPや骨量増加因子を組み合わせれば、小人症にも応用できるか?人の身長は遺伝できまるか?それは破骨細胞と骨芽細胞の量の遺伝のためか?
残念ながら小人症への応用は難しいかもしれませんが、例えば片側の足が事故など何らかの事情で反対側より短くなった場合に行う骨延長術には応用できると思います。身長は遺伝で決まってくる要素は大きいと思いますが、それが破骨細胞や骨芽細胞の量で決まるというよりは成長ホルモンなどの発現で決まってくると思われます。
骨形成と破骨細胞の関係について理解したい
是非、当研究室にお越し下さい。時間をとってご説明します。
Caが足りないから骨が強くならない?
そういう部分もありますが、他にも遺伝的な要因など多くの要素が関連しています。
タンパクから同定していく方法はないのか?
あります。現在ではタンパクの同定から始めている研究が数多く発表されています。
寝たきりになるとボケてしまうのはなぜ?
行動していると様々な刺激が無意識に脳に集まり、常に脳が刺激されます。しかし、寝たきりになるとそのような刺激が減り、また体を動かすための意識もしなくなるためと思われます。実際、骨折の治療などで動けるようになると、元の状態までは戻ることが多いので、動けるということは脳にも大切なことのようです。
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